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札幌地方裁判所 昭和62年(行ウ)5号 判決 1991年10月01日

北海道小樽市朝里二丁目六番一五号

原告

本間運輸株式会社

右代表者代表取締役

本間正一

右訴訟代理人弁護士

田中宏

北海道小樽市富岡一丁目一六番一号

被告

小樽税務署長 藤田誠

右指定代理人

大沼洋一

佐藤隆樹

溝田幸一

高橋徳友

箕浦正博

猪股間喜雄

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求の趣旨

一  被告が昭和五九年七月一二日付けで原告の昭和五四年四月一日から昭和五五年三月三一日までの事業年度の法人税についてした、更正決定処分のうちの所得金額四七〇二万〇四一五円及び法人税額一八〇三万八二〇〇円を超える部分の処分並びに右超過部分に対する重加算税賦課決定処分を取り消す。

二  被告が昭和五九年六月二六日付けで原告の昭和五六年四月一日から昭和五七年三月三一日までの事業年度の法人税についてした、更正決定処分のうちの所得金額一五八二万一六五九円及び法人税額五二八万三九〇〇円を超える部分の処分並びに右超過部分に対する重加算税賦課決定処分を取り消す。

第二事案の概要

一  事案の要旨

本件事案の要旨は、被告が原告に対して行った、原告の昭和五四年四月一日から昭和五五年三月三一日までの事業年度(以下「昭和五四年事業年度」という。)及び昭和五六年四月一日から昭和五七年三月三一日までの事業年度(以下「昭和五六年事業年度」という。)の各法人税についてのそれぞれの更正処分及び重加算税賦課決定がいずれも傭車費の損金の額への算入(以下「損金算入」という。)を否認した違法があるとして、請求の趣旨記載の限度での右各更正処分及び重加算税賦課決定の取消を求めるものである。

被告が損金算入を否認した部分は、昭和五四年事業年度については別表(2)記載の高谷産業ほか一〇五名(以下「高谷産業等」という。)に対する合計二〇〇〇万円の傭車費(以下「高谷産業等に対する傭車費」という。)であり、昭和五六年事業年度については別表(3)記載の及川運送ほか一一八名(以下「及川運輸等」という。)に対する合計二五七四万六三七〇円の傭車費(以下「及川運輸等に対する傭車費」という。)である。被告は、これらがいずれも架空計上(不存在)であるとして、損金算入を否認した。

二  本件の経過(争いのない事実)

1  原告の申告

(一) 原告は、運送を業とする有限会社(平成二年七月一八日に株式会社へ組織を変更した。)で、資本金二〇〇〇万円の同族会社(法人税法《以下「法」という。》二条一〇号)であり、昭和五五年三月末日当時、法一二五条による青色申告を承認された法人であった。

(二) 原告は、昭和五四年事業年度及び昭和五六年事業年度の法人税について、それぞれ別表(1)の「確定申告」欄記載のとおり申告した。

(三) 原告は、昭和五六年一月二〇日、昭和五四年事業年度の法人税について、確定申告書に記載した交際費の損金算入限度額につき、一〇〇万二三〇〇円の過少計算をした誤りがあったとして、別表(1)の「修正申告」欄記載のとおり修正申告をした。

2  処分の経過

被告は、別表(1)記載のとおり、更正及び賦課決定(以下「本件更正等決定」という。)をしたところ、原告からの異議申立てを受けて、これを棄却する旨の異議決定をした。さらに、被告からの審査請求を受けた国税不服審判所長は、これを棄却する旨の裁決をしたが、それらの異議申立て及び審査請求の理由は次の3記載の原告の申告の根拠と同一であった。

3  原告の申告の根拠

(一) 昭和五四年事業年度について

原告は、昭和五四年事業年度において、別表(2)記載のとおり、発注元からの農産物等の運送を請負い、その運送区間の全部ないし一部を下請けにだし、高谷産業等に対する傭車費二〇〇〇万円及び有限会社吉田産業、有限会社丸喜産業、有限会社信興実業及び岩城興業有限会社の四社(以下「吉田産業等四社」という。)に対する合計一九件、二四四五万三五〇〇円の傭車費(以下「吉田産業等四社に対する傭車費」という。)を負担したので、右事業年度の所得の金額の計算上、これらの傭車費合計四四四五万三五〇〇円を損金の額に算入するとした。

(二) 昭和五六年事業年度について

原告は、昭和五六年事業年度において、別表(3)記載のとおり、発注元からの農産物等の運送を請負い、その運送区間の全部ないし一部を下請けにだし、及川運送等に対する傭車費二五七四万六三七〇円を負担したので、右事業年度の所得の金額の計算上、この傭車費二五七四万六三七〇円を損金の額に算入するとした。

4  被告の更正等処分とその理由

(一) 青色申告承認取消処分

被告は、高谷産業等及び吉田産業等四社に対する傭車費について、領収書等に基づき、同人らの所在を調査したが、いずれもその所在を確認することができなかったため、これらの傭車費はいずれも架空のものと認定した。

そこで、被告は、昭和五九年六月二二日、原告が昭和五四年事業年度に係る帳簿書類に架空(不存在)の高谷産業等及び吉田産業等四社に対する傭車費を計上記載したことは、法一二七条一項三号に規定する青色申告承認取消事由に該当するとして、原告に対し、同事業年度にさかのぼって、青色申告書承認を取消す処分を行った。したがって、原告に対する昭和五四年事業年度以降の法人税に係る更正等の処分は、いわゆる白色申告法人としての処分となった。

なお、原告は、当初、右青色申告承認取消処分の処分取消しの訴えを提起し、右処分の有効性を争っていたが、その後、その訴えを取下げ、以後右処分の取消しを求めないと表明した。

(二) 昭和五四年事業年度について

被告は、右(一)の理由から、高谷産業等及び吉田産業等四社に対する傭車費合計四四四五万三五〇〇円の損金算入を否認して、これらを申告所得金額に加算し、別表(1)記載のとおり、昭和五四年事業年度の所得の金額を六七〇二万〇四一五円として、法人税額を増額変更する更正処分をした。

(三) 昭和五六年事業年度について

被告は、及川運送等に対する傭車費について調査したが、そのうちの五八名については領収書記載の住所に実在する事実を確認することができず、その余の傭車費先については、その住所さえ判明しなかったため、これらの傭車費はいずれも架空のものであると認定し、同人らに対する傭車費二五七四万六三七〇円の損金算入を否認し、さらに、損金として申告のあった交際費のうちの二二〇万一二三〇円及び福利厚生費のうちの一二五万〇〇九〇円を否認し、これらを申告所得金額に加算し、他方、交際費損金算入限度額二二三万一四四九円(原告の限度額三三九万一一〇一円と原告計算の差額)、寄付金の損金算入限度額八万六七三三円及び事業税三四二万〇四八〇円の損金算入を認容し、これらを申告所得金額から減額計算し、別表(1)記載のとおり、昭和五六年事業年度の所得の金額を三八〇七万六〇六四円として、法人税額を増額変更する更正処分をした。そして、右架空傭車費を損金の額に算入して、所得の金額を過少に確定申告した行為は、国税通則法六八条一項に規定する事実の隠蔽又は仮装に当たると認めて、右事実に係る部分の税額に対して重加算税の賦課決定処分をした。

三  争点

本件争点は、次の点にある。

1  原告の昭和五四年事業年度について、別表(2)記載の高谷産業等に対する傭車費二〇〇〇万円が架空計上(不存在)であるか。

2  原告の昭和五六年事業年度について、別表(3)記載の及川運送等に対する傭車費二五七四万六三七〇円が架空計上(不存在)であるか。

四  証拠関係

記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第三争点に対する判断

一  原告の運送業務の受注について

原告は、昭和五四年事業年度において別表(2)記載のとおり、昭和五六年事業年度において別表(3)記載のとおり、発注元からの農産物等の運送を請負った(別表(2)及び(3)の「売上帳」欄記載の書証、証人三上美知子及び原告代表者)。

二  傭車費の不存在について

1  領収書及び精算書の存在

別表(2)及び(3)記載のうち、別表(2)記載の番号(便宜、漢数字で表記する。以下、同じ。)二、六、一〇、一六、一八、二二、三一、四二、四五、六〇、八二及び八四番の一二名並びに別表(3)記載の番号一ないし四四、四六、ないし五二、五五、五八、六二ないし六四、六六、六七、七〇ないし七二、七四、七五、八二、九一、一〇一、一〇三、一〇五及び一〇九番の六八名を除くその余の下請運送者(傭車先)については、同各表記載の傭車年月日、傭車車両の車両番号(ただし、別表(2)記載に関しては、一件を除く全てが一桁の数字に過ぎず、別表(3)記載に関しては、その多くが二桁の数字に過ぎなかった。)、下請(傭車)関係の運送区間及び運送金額(傭車費)を記載した精算書及びその領収書が存在し、別表(3)記載の番号六四番の細田広については傭車費に関する領収書が存在する(別表(2)及び(3)の「領収書」及び「精算書」欄各記載の甲号証、甲第六一五号証)。

また、被告の税務調査の当時には、別表(2)の右除外の一二名及び別表(3)記載の番号七四、八二、九一、一〇一、一〇三、一〇五及び一〇九番の七名についても、右同様の領収書が存在した(弁論の全趣旨)。

2  傭車の調達方法

原告は、運送業務について、反復して、特定の者を恒常的に傭車してきたが、自社ないし右恒常的傭車のみでは受注した運送をさばききれないと判断したときは、直ちに小樽港のフェリー発着場や国道付近のドライブインなどに赴き、空車で帰る運転手を探し、同人らに対し、一時的傭車形態での下請運送の委託をしてきた。原告主張の高谷産業等、吉田産業等四社及び及川運送等の傭車は、この一時的傭車形態での運送の委託に属するものであった。なお、原告代表者は、高谷産業等、吉田産業等四社及び及川運送等の傭車は、その大部分を原告代表者本間正一自身が手配したと供述する。(甲第六一五号証、原告代表者の供述)

3  高谷産業等及び及川運送等の所在

(一) 所在調査とその結果

原告は、昭和五九年八月六日ころ、本件青色申告承認取消処分並びに本件各更正処分に対する異議申立書において、高谷産業等、吉田産業等四社及び及川運送等に対する傭車費(高谷産業等については別表(2)記載の、及川運送等については別表(3)記載の各運送下請契約等)は架空のものでないと主張し、高谷産業等及び吉田産業等四社についてはその下請運送者(傭車先)全員の住所を申告し、及川運送等についてはその一部の五八件(別表(3)記載のうちの「弁済日」欄に書証番号が記載されたもの)についてその下請運送者(傭車先)の住所を明示したが、その余の六一件についてはその住所を明示しなかった(乙第五、六、一四号証)。

被告は、本件各更正決定に際し、高谷産業等、吉田産業等四社及び及川運送等(ただし、右住所申告がなされた五九件のもの)について、その領収書の記載や原告の表明に基づいて、その住所とされた所在地の市町村役場、区役所又は所轄税務署に同人らの所在の有無を照会したが、いずれも実在しないとの回答を受け、結局、その所在を確定できなかった(乙第七、八、一五号証)。

また、国税不服審判所は、原告からの審査請求を受けて、札幌国税不服審判所をして、高谷産業等及び及川運送等(ただし、右住所申告がなされた五九件のもの)について、領収書に記載の住所にあてて郵便を発送させたが、そのすべてが名宛人不明との理由で返送されてきて、同人らの所在を確認することができなかった(乙第一一号証、乙第二二号各証)。

なお、前記及川運送等のうちの領収書が存在せず、かつ、その住所も明示されなかった六一件の傭車先については、精算書又は原告の帳簿書類上では、法人名又は氏名のみが明らかにされているに過ぎず、住所は不明のままである。(乙第一一号証)。

(二) 傭車車両の登録番号の控えの存在

原告は、別紙(2)及び(3)の「使用車両番号・傭車車両」欄記載のとおり、高谷産業等及び及川運送等の傭車の一部の車両の登録番号を精算書等に控えていたが、いずれも完全な形での登録番号の記載でなく、しかも、その多くが登録番号中の一桁又は二桁の数字を記録したものに過ぎなかった(同各表記載の甲号証)。

ところで、傭車車両の正確な登録番号を控えていれば、後日、その傭車の存否が問題とされても、その存在を容易に証明できるのであって、その確認行為自体はいとも容易なことであり、原告に不可能を強いるようなものでなく、原告が前認定の精算書等に傭車車両番号を記載したのも、同様の考えに立ってのことと推認される。しかしながら、原告の控えた不完全な車両登録番号では、傭車車両を特定することは不可能であったといえるのであって、原告の右登録番号の記録方法は、原告の右意図に照らしても、不自然と言わざるを得ない。

4  傭車費の長期未払

(一) 傭車費の支払状況

原告は、高谷産業等、吉田産業等四社及び及川運送等以外の傭車取引に関しては、当該年度中(そのほとんどが二か月以内の短期間)に決済をすませ、年度末での未決済分は事業年度末に発生したものが大半であった(乙第一一号証)。

しかるに、高谷産業及び及川運送等に対する傭車費についてはその全部がその事業年度末で未決済となっており、高谷産業等については昭和五五年六月一七日から昭和五七年一月二〇日までの長期間にわたって決済されたとされており(内訳は、昭和五五年度が七七件、昭和五六年一月から同年四月までの間に二四件、同年八月から同年一二月までの間に一一件、昭和五七年一月に二件の決済)、及川運送等については、そのうちの五七件が昭和五七年七月二七日から昭和六一年一二月九日までの長期間にわたって決済されたこととされた(内訳は、昭和五七年七月から同年一二月の間に四九件、昭和五八年一一月から一二月までの間に九件の決済)ものの、その余の六一件は現在まで未決済である(乙第五、六、一一号証)。

(二) 原告の反論について

この点に関し、原告は、高谷産業等及び及川運送等に対する決済関係は、それらの下請運送者(傭車先)が一回限りの取引者であり、次にいつ小樽を来訪するかわからないとの事情があり、決済が遅れても不自然でないと主張する。

(1) ところで、仮に、原告と高谷産業等及び及川運送等の下請運送者(傭車先)が存在したとしても、原告代表者の供述によれば、同人らと原告との間で傭車費の支払日について確定期日の合意は存在していなかったことがうかがえるところである。しかしながら、それらの下請運送者(傭車先)が一回限りの取引者であり、かつ、その者が次にいつ小樽を来訪するかわからないというのであれば、その者は、下請代金の即時払を要求するなり、運送に近接した日時での決済方法についての詰めをして、代金の取りはぐれを防止しようとするのが自然と言うべきであって、原告の右主張は直ちに採用できない。

(2) さらに、原告は、昭和五四年事業年度中、奥山運送(昭和五五年一月二三日と同年二月一〇日に傭車し、同年六月二五日に一括弁済したとする。《以下、同趣旨で「一括弁済」という。》)、中島組(同年一月二九日と同年二月一三日に傭車し、同年七月二日に一括弁済)、小坂運送(同年二月三日と同月一〇日に傭車し、同年一一月一〇日に一括弁済)、高谷産業(同年二月一三日と同月一九日に傭車し、同年七月七日に一括弁済)、森本商事(同年二月一四日と同月一七日に傭車し、同年一一月一〇日に一括弁済)、矢内鋼業(同年二月二五日と同年三月一日に傭車し、昭和五六年一月一七日に一括弁済)、横瀬峰男(昭和五五年三月八日と同月一八日に傭車し、同年一〇月三一日に一括弁済)、大塚工業(同年三月一〇日と同月一五日に傭車し、同年一二月二五日に一括弁済)の八名をいずれも二回傭車したが、その一回目の傭車費の清算は二回目の傭車の際でなく、それから相当の期間が経過した日に右二回分を一括して決済したとする(争いのない事実)。

ところで、原告主張のそれらの下請運送者(傭車先)が一回限りの取引者であり、次にいつ小樽を来訪するかわからないというのであれば、特段の事由のない限り、二回目の傭車の際に過去(一回目)の傭車費の清算をしてしかるべきところであり(本訴では右特段の事由を認めるに足りる証拠がない)、その決済が二回目の傭車の際に行われず、それから相当の期間が経過した日に右二回分を一括して決済されたとすることには、著しい不自然さが伴う。

(三) まとめ

以上の事実を総合すると、高谷産業及び及川運送等に対する決済関係は、それらの下請運送者(傭車先)が一回限りの取引者であり、次にいつ小樽を来訪するかわからないとの事情を斟酌しても不自然である。

5  別件傭車費の架空計上の存在

原告は、昭和五四年事業年度の法人税の確定申告に際し、吉田産業等四社に対する傭車費二四四五万三五〇〇円についても、現実に負担したものであり、右事業年度の所得の金額の計算上、その金額を損金の額に算入するとして申告した(争いのない事実)。

被告は、これらについても領収書等の記載等に準拠して調査したがいずれもその所在を確認することができなかったこと、及びこれらの傭車費は原告の関係者の銀行口座に一旦振り込まれた後、原告がこれを引き出したことを突き止めた。そこで、被告は、これらの傭車費はいずれも架空のものであると認定し、その損金算入を否認し、高谷産業等に対する傭車費の損金算入の否認と合わせて、同事業年度法人税に係る本件更正処分をした。原告は、その更正処分に対する異議申立て、審査請求及び本訴において、吉田産業等四社に対する傭車費の損金算入の否認を更正処分等の違法事由の一つとして主張してきたが、その後、右主張を撤回し、吉田産業等四社に対する傭車費に関する被告の更正処分を適法として認めるに至った。(乙第五ないし八、一一及び一四号証、弁論の全趣旨)

以上の事実によれば、原告は、架空(不存在)の吉田産業等四社に対する傭車費二四四五万三五〇〇円を計上することで、損金名目で不当な利益調整を試みたことが推認される。

6  その他

原告が使用した年間傭車費は、昭和五四年事業年度で約六億四一〇〇万円に、昭和五六年事業年度で約六億六三〇〇万円に達した(乙第一、一二号証、証人三上美智子の証言)。したがって、被告が損金算入を否認した傭車費は、昭和五四年事業年度における高谷産業等及び吉田産業等四社に対する傭車費(合計四四四五万三五〇〇円)で年間傭車費の約六・九パーセント、昭和五六年事業年度における及川運送等に対する傭車費(二五七四万六三七〇円)で年間傭車費の約三・八八パーセントに過ぎず、それらの損金算入が否認されたとしても、未だその余の九〇数パーセントに当たる年間傭車費の損金算入が認められていたこととなる。したがって、右損金算入の否認がその業務遂行のために恒常的及び一時的形態での傭車をしてきたとの原告の業務形態に不自然な事態を生じさせてはいないと認めるのが相当である。

7  結論

(一) 架空傭車費の認定

以上の事実関係のもとにおいては、昭和五四年事業年度における高谷産業等に対する傭車費二〇〇〇万円及び昭和五六年事業年度における及川運送等に対する傭車費二五七四万六三七〇円の負担は、いずれも架空のもの(不存在)であると認めるのが相当である。

(二) 反証について

(1) 領収書及び精算書の存在

前記認定の事実関係のもとにおいては、別表(1)及び(2)の「領収書」欄記載の甲号証がいずれも真正に成立したと信じるに十分でなく、原告作成の精算書である同各表の「精算書」欄記載の甲号証及び原告代表者の供述並びに同人作成の供述書である甲第六一五号証によっては、右(一)の架空傭車費の認定を覆すことはできない。

(2) 売上帳の記載について

原告が本件発注元との間の取引を記載した売上帳には、個々の発注に対応した形で法人名ないし個人名の記載が存在する(別表(2)及び(3)の「売上帳」欄記載の甲号証)。これらの記載は、原告が、本件税務調査の段階で、説明準備のために、税理士をして、発注主と高谷産業等及び及川運送等の傭車との対応関係を調査させ、その結果を右売上帳の支払欄等に下請運送者(傭車先)を個別的に付記する方法で報告させたものである。(別表(2)及び(3)の「売上帳」欄記載の書証、証人三上美知子の証言)

しかしながら、右売上帳の記載は個人の氏名ないし法人名の略称のみで、その住所の記載がないこと、前認定のとおりその後の調査によるも、それらの者の所在が判明しなかったことに照らすと、右売上帳の記載によっては下請運送者(傭車先)が現実に存在していたとの反証として十分でない。

したがって、右売上帳の付記事項をもってしては、右(一)の架空傭車費の認定を覆すに足りない。

三  本件各更正処分及び重加算税賦課決定の適法性について

以上の次第であるから、被告が、昭和五四年事業年度における高谷産業等に対する傭車費二〇〇〇万円及び昭和五六年事業年度における及川運送等に対する傭車費二五七四万六三七〇円は、いずれも架空のもの(不存在)であると認定し、昭和五四年事業年度について、高谷産業等に対する傭車費二〇〇〇万円の損金算入を否認して、これらを申告所得金額に加算し、同事業年度の所得の金額を六七〇二万〇四一五円及び納付すべき法人税額を二六三七万二六〇〇円とした更正処分、昭和五六年事業年度について、及川運送等に対する傭車費二五七四万六三七〇円の損金算入を否認し、これらを申告所得金額に加算し、同事業年度の所得の金額を三八〇七万六〇六四円及び納付すべき法人税額を一四六三万一〇〇〇円とした更正処分、右両事業年度のそれぞれについて、右各架空傭車費を損金の額に算入して所得の金額を過少に確定申告した行為はいずれも国税通則法六八条一項に規定する事実の隠蔽又は仮装に当たると認めて、右各事実に係る部分の税額に対して本件各重加算税を賦課決定した処分はいずれも正当であり、昭和五四年事業年度及び昭和五六年事業年度についての本件各更正処分及び重加算税賦課決定に違法な点はない。

第四結語

よって、原告の本訴請求はいずれも理由がない。

(裁判長裁判官 畑瀬信行 裁判官 石田敏明 裁判官 鈴木正弘)

別表(1)

【確定申告、修正申告、更正及び賦課決定、異議決定、審査裁決定の内容】

<省略>

別表(2)

〔昭和54年事業年度における下請一覧表〕

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

別表(3)

〔昭和56年事業年度における下請一覧表〕

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

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